走って、走って。
漸く、星屑が楚々と降るような静かに場所に、辿りついた。

「黙っていて、済まなかった。すべて話すから・・・聞いておくれ。」

泣き濡れた眸で、何故あの四人を残したのか、と。
詰るように問う幸村の視線を真正面から受け止め、キノトはすべてを語った。

信幸の歪んだ愛
其れが幸村を求めていること
夜泉島が滅んだこと
この夜襲も信幸の手によるものであること

「・・・何故、話して下さらなかったのです!?」

今度こそ、幸村も怒った。
前も相当、理不尽だと思ったけれど、今回は酷すぎる!

「キノト殿はどうして、私に何も教えて下さらないのですか!?どうして、こんなことになるまで
 何も言って下さらないのですか!?」
「云えば!お前は間違いなく、信幸の元に単身飛び出していっただろう!?わたしたちに危険が及ぶ
 ことを嫌って・・・!間違いなく、酷い方法で殺されると知りながら!違うかい!!?」

朝焼け色の眸が泣いている。
静かに震える其の声で、幸村は悟った。

「お前には、知ってほしくなど無かった。実の兄がお前のすべてを欲していること、わたしたちが
 忌避している真実、もう泣かせたくなかったから、知ってほしくなかった。」

其れが、他ならぬ深い慈しみと知れる、声。
幸村は、凛と・・・キノトを見据えた。

「真実を知ったら、私が怖じ気づくとでも思われましたか?」
「いいや・・・お前は勇敢な子だから、そして何より優しい子だから、きっと自分の身の安全など
 二の次、三の次にしてしまう。そうなってほしくなかったのだよ。」
「何故、其処まで私のことを案じて下さるのですか?」

静かな声。
悲しげに、キノトは答えた。

「お前が、わたしの光だからだよ、幸村。」


島を飛び出し
人間世界の戦に身を投じ
其の最中に見つけた、光

地平線を深紅に染める気高い陽光

「お前は、我が一族が焦がれる浄化の光の子。出会った瞬間そう分かったから・・・」

生きて、ほしくて。
あの黒い焔に、奪い去らせるわけにはいかなくて。

「けれど、結局わたしも信幸と変わらないね。お前を傷つけて、困らせて、苦しめた。」
「いいえ。」

きっぱりと
幸村は否定した。

「キノト殿は、もしも此処で私が一人逃げてみせると言ったら、どうされますか?」

出し抜けの質問に、気勢を削がれてキノトは首を傾げた。

「どうもこうも・・・お前の盾となり、わたしは此処で敵を食い止めるが。」
「其れが、兄上との違いです。」

幸村は目を伏せて微笑んだ。

「兄上なら、私を縛り上げてでも強引に連れて逃げるでしょう。其れが兄上の望む私です。
 兄上の元で、兄上の言葉だけを聞き、兄上以外の誰も見ない弟。そんな私になるよう、兄上は望んでいる。」

けれど、あなたは違う。

「私が、私の望むように生き、望むように闘い、幸せだと思える散り際を飾ること。キノト殿の望みは、
 兄上とは全然、違います。」

言葉もなく、キノトは幸村を見つめた。

此の、光は。

こんなにも暖かくて眩しくて

優しい色彩を、して、いたのか

焦がれるばかりで見抜けなかった本質、此程までの目映さ、包み込む赦しと癒し

其の、光が凛と言う


「私は、あなたと生きていきたい。」

終ぞ落とせず乱世が終わった此の命
誰よりも私を慈しむ、黒き翼の君に捧げよう
あなたが私を光というのなら

永劫あなたを守り照らし続ける光になりたい

寿命のない闇人と生きる道
其れは、残酷すぎる永遠への契約と同義

「分かって、居るのか?わたしは・・・我ら一族は・・・」
「傍にいたいんです。あなたの、傍に。」

本当は
憧れていました。
あの、小田原での出逢いから、ずっとずっと。

「そのあなたに、光と言ってもらえたこと。嬉しいのです、キノト殿。」
「・・・本当に、お前は、優しい、子。」

頭を撫でようと伸ばした手はそっと取られ。
手の甲に、恭しい口吻けが落とされた。



憧れていました

ずっとずっと 其の強さに 其の軽やかさに

憧れていました

ずっとずっと 出逢ったあの瞬間から

だから、あなたの其の慈愛、思い、すべて受け止めたいのです


其れが、闇を導く誓いだとしても














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