焔が舞う 焔が踊る
深紅の花が咲き誇り、瞬く間に散り逝くように
焔が舞う 焔が踊る
闇に潜む漆黒の獣が、咆吼するような音を立てて


其の夜、何が起こったのか。
最初幸村には分からなかった。

「見つかったというのか!?」
「早すぎる・・・やられたな!!」
「行こう、逃げなくては、このままでは・・・」
「こいつぁまぁた、大軍で押し寄せてきたもんだ。」
「向こうさんは本気、ですか。いや、死ぬ気かな。」

ただ、此処での生活の中で終ぞ見せたことのない緊張しきった面持ちで。
皆が騒いでいるから、ただ事ではないのだと。
そして、此処にいたら危険なのだと、其れだけは分かった。

「幸村。また、話すのが遅くなって済まなかったね。
 今此処で話している時間はないから、道々事情は話すよ。
 今は兎に角、逃げなくては危険だ。良いね。」

優しい黒鳥が、努めて平静を装って云う。
幸村は只、頷くしかできなかった。


「此処は俺が何とかするから、お前らは行きな。」

完全に武装して(無論幸村も槍を取った)、覚悟の表情で頷き合う五人を尻目に。
慶次が凛と、云った。

「前田慶次、一世一代の仁王立ちだ。こんなに粋な喧嘩はない!任せてくれよ!!」
「いやです!慶次殿だけ残してなんて行けな・・・」

縋るような眼差しで見上げる幸村を、キノトが素早く抱きかかえた。

「慶次。必ず追いついて、合流するんだ。いいね。」
「無論さ。さあ行きな!時間がない!!」

くるり、背を向ける慶次の前方から、火矢の雨が降り注ぐ。

「慶次!!」

キノトが叫ぶと同時に、薄紫の五芒星が夜空に浮かんだ。
視れば慶次の傍らに、兼続が寄り添っている。

「足止めは数が多い方が良い!私も此処に残ろう!案ずるな幸村、必ず追いつく!!」
「いやです、慶次殿、兼続殿!!」

じたばたと暴れる幸村をきつく抱きかかえると、キノトはもう何も言わずに夜闇の中へと駈け出した。
左近と三成が其れを追う。

四人の背を見送り、慶次は苦笑した。

「良いのかい、行かなくて。」
「私は、もう一度死んだ人間だ。本当の死に様は私自身が選びたい。」
「成る程。」

ほろりと、慈愛に満ちた笑顔で慶次は兼続を見つめた。
兼続も、優しい眸で慶次を見つめ返す。

「共に、此処で死ぬのだな。」
「ああ。お前と逢えて楽しかったよ、兼続。」

満ち足りた
終焉の形だと、二人とも思った。

「「さあ、派手に傾こうか!!!」」

押し寄せる兵たちを前に、二人は高らかに吼えた・・・・・。




「数が多すぎる・・・」

飛ぶように走りながら、キノトが舌打ちをする。
夜目にも分かる葵の御紋。
徳川の御旗を掲げた敵の正体など知れていた。

「どうやら、ここらで俺たちが足止めにならなきゃいけないようだ。」
「行け、キノト。俺と左近が止める。」

最初から決めていたのだろう、後ろを走っていた二人が足を止めた。

「そんな・・・三成殿、左近殿まで・・・絶対、絶対に、いや・・・」
「幸村。お前が生きねばならんのだ。俺たちは関ヶ原で死んだ人間だぞ!」
「在るはずの無かった日々を、あんな幸せに生かしてもらったんだ。散り際も華々しく飾らせてくれ。」

穏やかに
云う二人に、涙しか溢れてこない。
キノトは下唇を噛み締めて、叫んだ。

「必ず、慶次、兼続と共に追いついてくるんだ!良いね!?」
「当然だ。」
「ま、取り敢えず行けって。」
「いや・・・」

幸村が言いかけた時既に、キノトは走り出していた。
残った左近と三成は、きつく手を握りしめ合った。

「最期まで、殿にお仕えできて左近は果報者です。」
「俺の方こそ。お前のような者が従ってくれて、幸せだった。」

見交わす視線に、未練はない。

「関ヶ原に散ったはずの命だ、派手に行くぞ左近!!」
「諒解!華々しくぱあっと逝きましょう!!」

行く手には無数の松明。
臆することなく、二人は飛び込んだ・・・・・。










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