夜泉島。
其の地は、キノトの一族『闇人』が住まう異境。
住人たちは皆、人間世界に同じ顔をした者が居る、そういう世界。
其の、幸村と同じ顔の闇人が、殺された、という。
「黒い焔の残滓・・・信幸だね。」
闇人の亡骸は、死と同時に紅い光に包まれ、跡形もなく消えるのだが。
「おいおい、そいつぁ・・・拙いんじゃないかい?」
「ああ。傍目には何かの術にしか見えまい。弱ったことになった。」
当初キノトは。
「島に、匿うつもりで居た。彼処は人間が踏み荒らせない場所だから。でも・・・」
嗚呼、闇人一族の命運は尽きた。
虚空を見上げ、キノトが泣いているのが全員分かった。
「島が落とされるのも時間の問題と。人間たちの大船団が近付いてきていると。
負けるつもりはないが、数が不利すぎる、そういう、内容だった。」
殺されたツチノエは、頭領であるキノトと其の客人である幸村とを迎えにきたらしかった。
「けれど、彼らは光の元では動けない。陽の射さない暗い社に隠れていたのだそうだが・・・」
不運にも、不審な人影を見つけた者が居たのだろう。
そして更に不運なことに、其れが信幸の耳に入ったのだ。
「背格好と顔立ちから、信幸が出てきたらしいね。なんと・・・云うことだろう・・・」
ツチノエにしてみれば、『頭領の敵』側の人間なのだから、攻撃に躊躇いはない。
けれど、信幸にしてみれば。
「実の弟が本気で殺しにきた。自分はこんなに愛しているのに・・・そう思えばあとの惨劇は、
想像に難くない。」
簡単に死なせてはもらえなかった。
島に残してきた副官からの、恐らくは最期になるであろう言伝蝶は克明に、其の末期を記していた。
「此処が、見つかるのも時間の問題だな。」
冷静に、三成が呟いた。
「幸村が生きているとなれば、信幸の暴走は容易い。山狩りでもなんでも行うだろう。」
「となれば、早いとこ何らかの手を講じないと危険ですな。どうする、キノト?」
暫く
何事かに迷うように、キノトは黙り込んでいたが、ややあって。
「まだ幸村の傷が癒えない。それに、明日明後日にでも此処が見つかるわけでもない。
まずは、幸村が動けるようになるのを待たなくては。」
「其の通りだ。今下手に動くのは下策でしょう。」
左近も同意し、見回せば残る三人も頷いている。
「此処から先が、勝負だな。」
兼続の言葉に、異を唱える者はなかった。
其れから後数日は、あの言伝蝶が嘘だったかのように穏やかに過ぎた。
幸村は順調に回復し、天下太平とは斯くも静かなものなのかと皆平和を享受していた。
しかし・・・同時に皆痛感していた。
これは、嵐の前の静けさ。
明日は『終わり』かも知れない。
そんな、微睡むような幸せなのだ、と。
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