舞い散る風花は
嘆き吹き荒ぶ粉雪は
女神の涙なのだと、そう教えてくれたのは
あなた
凍レル深紅
霧の去った八幡原に、舞い散る華のような雪が降り出した。
勝てなかった。
幸村の胸に、苦い苦い惨敗の実感が去来する。
深々と。
白く閉ざされていく、喧噪の去った戦場で、独り。
場違いのように脳裏を掠める追憶に、身を委ねた。
「かんすけ様。」
幼い頃。
確か自分は、あの麗しい人をそう呼んでいた。
「雪が、ふっております。縁側では風邪を引いてしまいまする。」
一度、そうだ、ただ一度だけ。
こんな風に雪の降りしきる、誰も居ない庭を眺めていたあの人を、見つけたことがあった。
あの人は。
麗しい紫水晶の軍師は、静謐な笑みで振り返って。
「ああ・・・そう思うのだが、冬の女神は何を嘆くのかと、らしくない考え事をしていた。」
言っている当人の方がまるで女神のようだった、白いかんばせが記憶の中でさえ眩しい。
雪は。
「天命と水晶と、冬を司る女神の涙なのだよ。」
女神。
其の言葉が気になって、強引に膝の上に潜り込んだ自分の頭を撫でながら。
あの人は教えてくれた。
「名は雪姫。慈悲深さと残酷さとを併せ持つ、天の命数の監視者。金の眸と深緑の髪を持ち、其の唇は
紅く麗しいのだという。」
「かんししゃ??」
「其の者が選んだ未来が、間違いなく紡がれることを見守り続けるのだよ。」
難しい言葉に首を傾げたら、優しくそう教えてくれた。
「其の吐息は風となり、其の涙は雪となる。人の世を憂い、嘆けば、其れは苛烈な吹雪となる。
神々しい其の素顔は、痛々しいほどあどけないのだそうだ。」
なんだか、遠回しにお前のことを言っているよう印象だな、名も少し似ているし。
そう言って微笑んだ、優しい人。
もう、二度と会えない、優しい人。
嗚呼、寧ろ。
慈悲深くも残酷な其の女神は、あなたに似ている。
菩薩のような優しさを抱え、修羅のごとき凶刃として戦場を舞うあなたに。
全身ズタズタに切り裂かれて散った、紫水晶。
深々と。
降り積もりゆく白い欠片が、何もかもを閉ざしていく。
「軍師殿。」
掠れた声で呼んでも、いらえはない。
分かっているけれど、其れでも。
「また、女神が泣いております。」
あの日、あなたが教えてくれたいとけない女神が。
嘆きの涙で全てを抱き隠そうとしています。
“いや・・・お前が泣くから、其れが哀れで、泣いているのだよ”
静謐な声が、聞こえたように思った。
雪は、止まない。
†††††††††††††††
何となく、『白姫抄』っぽい雰囲気目指して玉砕。
ちっさい幸は勘助に懐いていればいい。
んで、図体でかくなってもちっさいころのノリのまま飛びついて、何度と無く押し倒していればいい(は?)
そして佐助に怒られていればいい。
「雪姫」は、オリキャラ。随分昔に原型は出来てて、なんかシスターシリーズで女神として確立した方。
水晶と天命を司る、雪と冬の女神。そんなん。
(10.16追記)
転送やら保存やらでのミス、大変失礼いたしました。