浅井家、天下統一前夜。

「此処まで、色々あったな。」

振り返って元親は微笑した。
山賊に励まされたり、町娘に憧れられたり、助けた姫に惚れられたり。

「玉が足りなかったり、仕官できなかったり、運命を塗りかえたり、要らない宝珠が溜まったり。」
「アレ、悪い思い出の方が比率高くないですか?」

我に返ってはいけないところで我に返ってしまった。
左近の笑顔がなんだか切ない。
そんな折りだった。

「今まで、よく仕えてくれた。貴殿らのおかげで、もう天下が見えている。」

主君・浅井長政が陣中見舞いにやってきた。

「今までの働き、感謝している。これを受け取ってくれないか。」

差し出されたのは、小さな袋がひとつ。

「貴殿らは、宝珠を集めていると聞いたから・・・某からの気持ちだ。」

爽やかな笑顔を残し、長政は去った。

「そんなに知れ渡ってるんですかね・・・。」

左近の視線は遠い。

「ともあれ、何の宝珠か確かめなくてはなるまい。」

攻撃のだと良いな。
元親の顔には大きくそう書いてある。

果たして、出てきたのは・・・・・


「運、じゃな。」
「よりにもよって・・・・・・」

怒る気力すらないのか、元親が項垂れる。
一番、使い勝手に困る宝珠が出てくれば仕方ないかも知れないけれど。

「そうやって他人に運を分けるから、ヤツ自身は薄幸なのではないのか・・・。」

元親、其れは禁句だ。

こうして、イマイチ士気が上がらないまま決戦の朝は訪れてしまった。


閑話。

「俺の時と反応が違うではないか・・・・」

三成は何故か、不機嫌なことが多かった。
今回もそうである。
まあ、機嫌が悪くなっても仕方のない状況ではあったのだが。
仏頂面で何か言いたげな三成を、左近は苦笑して宥めにかかる。

「まあまあ。あんな風に言われて渡されちゃあ、文句も言い難いですよ。」
「其れは分かる。だが・・・・」

僅かばかり。
機嫌が直ったらしい兆候が見て取れたので、左近は尚も重ねた。

「いるじゃないですか、何かこう、怒りにくい相手って。今の長政殿は当に其れなんですよ。」
「言いたいことははっきり言った方が良かろう。」
「出た、殿の悪い癖だ。」

心持ち、真剣な顔で。
左近は三成を正面から見つめた。

「確かに、言わなければいけないことも、言ってやった方が良いこともあります。ですが・・・
 言わぬが花、胸三寸に収めた方が良いことも、この世の中には多くあるんですよ。」

面倒な。
伏せた眸がそう言っている。

嗚呼、全く困った御仁だ。

不満そうな其の顔がなんだか可愛くて、左近は心の底から苦笑した。

何処へ行ってもラブ全開、佐和山主従は変わらない。


そうして迎えた、運命の第43ターン目にて
見事浅井は天下を統一したのであった。