・・・夜明け前であった。
薄く紫に染まる空、淡く蒼く透ける海
水面を 渡って
呪 詛 と 怨 嗟 の 歌 が 響 く
――――― ニクヤ ニクヤ イシダミツナリ・・・・・・
――――― オノレ オノレ セイグンノモノドモ・・・・
悲痛なまでの 聲
影すらなくした亡者たちの・・・呼び声
「謡うが良い、凄絶に。」
ぽつり、海を見遣って元親は呟いた。
嗚呼、呪いは、無念は、遙か風に乗り
関ヶ原の地から 此の土佐まで流れ着いたか!!
海を渡る歌声に、独り耳を傾ける。
「心ゆくまで謡え・・・凄絶に掻き鳴らせ、掻き暗らせ。」
爪弾いた三味線が、小さく泣いた。
戦、という連鎖は何時から始まって
人は何時まで、繰り返すのだろう
其の度に、影すら無くす哀れな亡者を生みながら
「奏でてやろう。お前たちの為に、楽土へと続く鎮魂の歌を。」
嗚呼、せめて彼らの声を聞き、彼らの為に謡うことが赦されるのならば
生まれ出ずる朝の光
死に別れ逝く夜の光
人は繰り返し、歴史は繰り返し、時は繰り返し、廻り巡って流れるモノ
「・・・・・・・・・・・。」
小さく、呟いた言ノ葉は 三味線の音色と波濤に融けて・・・消えた。