此の戦、自分を勝利に導いてくれたのは
同じ志を掲げ、奮戦してくれた遠き友と
何よりも、傍らで支えていてくれた
お前という絶対の存在があったから
【霧の晴れた静寂の丘で】
「勝てた・・・。」
らしからぬ、と言うよりも寧ろあり得ない勢いで力のない、声。
左近は、背後からした其の声に振り返った。
声の主は、自らには過ぎたる主と自覚している主君、石田三成である。
何時も、絶対の自信と確信を持った彼の人の、声が。
「勝てた・・・のだな、俺たちは・・・。左近、俺たちは徳川に勝てたのだな・・・?」
頼りなくて、覚束無くて、道に迷った幼子のよう。
平生は凛と怜悧な眸までも、何処か夢うつつのように揺らいでいる。
「・・・ええ。殿の、義の勝利です。」
数多の言葉を重ねるのではなく、其れだけの科白以外は全て、強い包容に込めて。
左近は、答えた。
力の抜けきった三成の躰は、されるがまま、左近の力強い腕の中に収まっている。
「本音を、言うとな、左近。俺は何処かで、負けるのではないかと思っていた。西軍の結束はあまりに弱く、東軍は確実に其処を衝けるだけの機略と武勇がある。立花と島津を潰されたら、最後だと思っていた。」
ぼろ、と。
三成の双眸から、大粒の涙が零れた。
「この場には兼続も幸村も居ない。心は繋がっていても、彼らが実際にいるのは遠い場所だ。俺は不安だった。最悪の場合は、お前と二人で義を貫き、散るのだと、何処かで俺は覚悟していた。」
華奢な三成の指が、左近の羽織を強く握りしめる。
爪の先が真っ白になる程に、強く、強く。
「此の戦、勝てたのは、皆のおかげだ。奮戦してくれた諸将と、兵たちの。けれど左近。」
涙に濡れた三成の眸が、左近を見上げる。
「俺の心が、挫けないまま耐えることが出来たのは、お前が居てくれたからだ。お前が傍にいてくれたから、俺は踏み止まれた、義を貫けた。」
「勿体ない、お言葉ですよ、殿。オレはあなたの為に軍略も武も、全て捧げる心積もりでついてきたんですから。他の誰が裏切っても、敗走しても、あなたから離れるつもりは毛頭無かった。其れだけです。」
「其の、お前の気持ちが嬉しいのだ。左近、感謝している・・・・愛して、いる。」
「殿・・・・・・」
ああ、こんなにもこの人に必要とされて。
こんなにもこんなにも、頼りにされて、想われて。
一時のノリ任せのように仕官してしまった、そんな主だったけれど、今では。
常に、唯一無二の、あなたの在処でありたいと、思う。
「オレも・・・あなたを愛しています、三成様・・・・・。」
あなたが望むままに、あなたの傍らで。
共に、生きていきたい。
「左近、俺から離れるな。ずっと、ずっと、傍に・・・・・。」
「何時まででも、傍に居続けますよ。三成様。」
霧の晴れた、関ヶ原の風の中。
深く重なった唇に、誓うのは二人の永遠。
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一番最初に書いた、センムソ2のサコミツ。
いやあ、巷で噂の半泣き三成をなかなか拝めなくて。
だったら自分で錬成してやるよ!という暴挙に出た次第。
とことん破月って救えない・・・。
三成は、本当は凄く不安がっていればいいと思う。関ヶ原の前。
けど、そんなのおくびにも出さず、ただ義の世の為に戦うつもりだけを全面に出しているのが良い。
で、勝てたらその辺の気負いがふっと抜けて、左近に全部漏らしていればいい。
半ば放心状態でなければ、こんな素直に告らないよね、三成・・・。
左近は、何か気が付いたら三成が大事で大事で、どうしようもなくなっていれば最高です。
けど、押し殺して仕えているの。主従だ、って自分に言い聞かせて。
三成は左近が大切なんだけれど、其の気持ちを何と呼ぶのかに気が付いていなければいい。
スゲェ、爛れた妄想のオンパレードだ。
なんてことを思いながらモリモリ書いていた、あの頃に帰りたい・・・(泣き笑い)