どんなに、言葉を取り繕って言い聞かせても
焼けつくこの喪失感が、治まることなど無く
【 龍 】
<龍よ、舞い戻り
大地へ誘い
罅割れたわたしを元に戻せ>
「生まれ、変わったら。・・・鳥に、成りてぇ、な・・・」
其れが、彼の人の最期の言葉。
苦しんで、傷ついて、其れでもがむしゃらに生きたあなた。
見たくもないドロドロとした人間の心の醜さを、見せつけられながら生きてきた。
(もう、そんな物・・・見なくて済むように、なったんだよね?)
そんなの、詭弁。
幾ら言い聞かせても、削ぎ落とした筈の心が、ぎりりぎりりと軋み泣く。
描ける筈だった未来。
幸せという名の組み木細工。
あなたという存在を失って、脆く儚く、崩れ落ちた。
忘れてしまえ。
天に帰った龍のことなど。
そんな果たせない願いを抱いてしまうくらいだったならいっそ。
共に。
死んでしまっていたら良かったのに。
<龍よ、古の泉へ誘い
枯れたわたしの
瞼を戻して>
回避できなかった戦。
避けられなかった激突。
どうして、此の戦に限って、総大将撃破の大任が、自分の主に下されたのかと。
どうして、何とか死なせずに終われるような、上手い立ち回り方が出来なかったのだろうと。
あの人の血に染まり、今なお震え続ける両手をぼんやり眺めながら、佐助はただ己を責めた。
どうして、
この手で、
オレは、あの人を・・・
こ ろ し た の ?
あの人の命を奪った自分を、オレは許せないよ。
瞼がカラカラに乾涸らびるまで恨み嘆いて、一生呪い続けるよ。
全身ズタズタになっても、忍びとしての仕草が身に付いた此の体を厭うよ。
元より、敵同士だった二人。
何れ闘う宿命ではあった。
分かっていた。
分かっていた。
其れでも、あなたが好きでした。
愛していました、心の底から。
呑み込みなさい。
愛しい人をこの手にかけた、現実を。
噛み砕いて、一息に喉の奥へ。
其れが課せられた業なのだから。
でも、出来ない。
あなたの死を受け入れられない。
ねえ、他の何であっても、甘んじて受けることが出来るから。
どんなに、残酷なことであっても。
あなたが一人燃え尽きて、天へと帰る道を選んだ、この結末以外なら。
生きる、とは。
現実、とは。
斯くも躓き、惑うもの。
躓き、惑い、彷徨うもの。
龍の返り血に焼け爛れた唇で、戻し続けるほどに受け入れ難い。
足掻いても足掻いても、寧ろ足掻けば足掻くほど
あざ笑うようにきらきら光って、浮き上がるこの想いを凍らせる。
龍よ
本当に空に帰ったのなら
雷を落として
雨雲を裂いて
己の命を奪った闇を、連れて行けばいい。
<目を醒ませ
わたしの 獣>
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天野月子の『龍』は、ダテサスの死にネタだと思うわけで。
上手く表せなくてアレですが、佐助が伊達を殺した感じ。
幸村を庇って、とかだったらなおモヤモヤ。
・・・夜見島に逝って参ります。