此の命が、尽きてしまう前に

唯、たったの一度で良いから


君の魂に・・・触れたい






【 楽園parade 】





柔らかく、仄かに冷たい何かが手の甲に触れ、秀吉は視線を落とした。

「どうした、半兵衛。」

見れば、無骨な自分の手に頬を寄せる、無二の友の姿。
目眩でも起こしたのかと心配になった。

「ああ、すまない。大きな手だなあと思って。」

答える声は、具合が悪いことを隠している風でもなく。
ひとまず、安心した。


豊臣軍、小田原制圧。
さしたる障害もなく、戦国屈指の要衝を落とした日の夕暮れを、其の天守から二人、眺めていた。

二人きりの時間は、体の弱い半兵衛の肩を労るように抱くのが癖になったのは、何時だったか。



頬に触れる手の温もりが、愛しくて恋しくて。

「次は、甲斐か奥州か・・・。どちらにしても、此の手に切り開けないものは無いね、秀吉。」

修羅の道を行く傷だらけの手、其の傷のひとつひとつまでもがこんなにも愛しい。
まだまだ遠い道のり、けれど自分は、何処まで其れについて行けるだろう。

・・・何処で、この最愛の人を置いて彼岸へと渡るのだろう。

二人で眺める黄昏は美しい。
けれど、黄昏はそんな想いを掻き立てるから。

誰も居ないのを良いことに、半兵衛は秀吉に体重を預けるようにして寄り掛かる。
微動だにせず受け止める胸から響く、力強い鼓動。



訪れた彼に、唇を開いた五年前のあの日を忘れない。




「半兵衛。」

ややあって。
秀吉が、改まったように口を開いた。

「なんだい、秀吉。」

見上げた秀吉の眸は、黄昏の光の中優しい色をしていた。


「五年前・・・お前と出会ったあの日、言いそびれたことがあった。其れを今言いたいが、良いか。」
「別に良いよ。」

ゆっくりと、一言一言確認しながら秀吉は言葉を紡ぐ。


「此の右手は、未来を、何もかもを切り開く手。されど左手は・・・」

「左手は、何?」

半兵衛の肩を抱く秀吉の手に、微かに力が籠もった。

「・・・半兵衛。お前を決して離さぬ、手であれば良いと、思う。」

時間が、止まったような気がした。

「天命も、寿命も、万物も。二人を隔てられぬようお前を繋ぎ止める、手でありたい。」

重ねて言う、其の言葉の意味。
零れ落ちそうになる涙を、必死で押さえた。

「・・・大丈夫。君の夢半ばでは、絶対にいなくなったりしない。約束する。」

握りしめる手に、ありったけの力を込めて。
心に燃え上がる、漆黒の焔に蓋をして。



(だって、きっと出逢った其の瞬間愛したのは僕の方。)

(君を焼き尽くすまできっと消えない、浮き上がる想いを抱いているのは僕の方。)




「此の地平線を埋め尽くす、最強の軍を創るよ。そして君と二人で其の先陣に立ち、何処までも行こう。」

此の心に燻る、禁断の炎に触れさせてはならない。
けれど傍にいるよ、誰よりも近く君の傍らに。




重なり合う二人の影は、夕陽を遮って。

けれど、重ねようのない想いだけが、空を覆う薄闇の中をたゆたっていた。












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コレで半秀と言い張ってみる・・・。
ドラマCD聴いてると、半秀がものっそい勢いで湧き上がってきます。
けれど・・・あああああ、まとまりってどうしたらどうしたら(机バンバン)

『笛吹き男とパレード』は、もう豊臣軍にしか聞こえないんです。
笛を吹いているのが半兵衛、少女を肩に乗せているのが秀吉
(先頭で笛を吹く仮面の男と、肩に少女が乗っている男は別人てことで)
夕陽を裏切って、地平線を焼き尽くすほどに強大になればいい、豊臣軍。
半兵衛は笛の音を操って、一人また一人列に加えていけばいい。
みんな笛の音に誘われ、一人また一人列に並んでいけばいい。
そんな豊臣の大軍勢を妄想しています。