黎明。

淡く白んでいく水平線を見つめ

政宗は元就の肩を抱いていた。





【 椅子は口を聞かない 】




毛利軍、四国平定。
惚れた弱みで、要請された援軍を断れず、しかも巧みに煽られて獅子奮迅の働きをしてしまった
政宗は、深く深く嘆息した。

「長曾我部の四国の平定は、数年がかりの大仕事だったはずだろ。其れを一晩で成したんだからなー・・・」
「何だ、疲れた、とでも?」

冷然と。
麗しい日輪の申し子は、独眼竜を見遣り、言う。

「あのな、幾らオレでも体力の限界ってモノがあるんですけど。」
「閨でのそなたを思う限りでは、信じられん。それに・・・」

其れを持ち出すかコラ。
絶句する政宗を意に介する風でもなく、挑戦的に、そして妙に自信ありげに元就は続ける。

「此の程度のことも成せずに、我の独眼竜も何もあるまい。」

堂々と私物宣言を下され、政宗の嘆息はいよいよ脱力感が染みてくる。

(口説き始めは、オレの方がleadしていたんだがなあ・・・)

何時の頃からか、この尊大で横暴な日輪の女王陛下の、すっかり忠臣と化している気がする。
しかも、其れは其れで悪くない気がしているのだからもう。

末期だ。

と思う。けれど、まあ頼りにされてもいるわけだし、なにより政宗が元就を好きすぎてどうしようもないのだ。
惚れた弱み、とはよく言ったものである。


甘いんだかしょっぱいんだか、今ひとつ微妙な政宗の物思いは、女王様の一喝で幕を閉じた。

「座れと言っている、独眼竜。」
「What??」
「聞こえぬのか?座れと言ったのだ。其処に手頃な石がある、座るが良い。」

どうやら、既に何回か「座れ」とのご命令が下されていたようである。
あくまで命令口調だが、珍しく見せてくれた優しさが嬉しくて、政宗は素直に従った。
と。

さも当然のように、政宗の膝の上に、元就は横座りした。
面食らったのは政宗である。
鎧を着込んでいるとは言え、元就はさして重くなど無い。
が、こんな体勢に持ち込まれて、動転しない男は普通居ない訳で。

「お、おい元就・・・」
「黙れ。」

つぴっっ

抗議しかけた其の刹那、鼻先に突きつけられた『征厳の配』。
一見すると其れは、相手の虚を誘う為の吹き流しじみた軍配だが、実は無数の房の中に幾つか、炭素繊維なる切れ味の鋭い繊維を織り込んだものが紛れ込んでいる凶悪な代物で、人体程度なら軽く切り裂くことが出来る恐ろしい武器なのである。
事実、ひとひらの房に軽く掠められた政宗の頬は、確かに切れて薄く傷を負っている。
反抗を其の仕草だけで封じると、元就はきっぱり言い放った。

「そなたは我の椅子。椅子は、口を聞かぬ。」

椅子。
聞き間違いも何もなく、椅子。

嗚呼・・・。
(オレの肩書きはとうとう、「日輪の申し子の椅子」になっちまった・・・・・。)

贅沢を言えば(事実の筈なのに、こうとしか言えない現状が哀しい)「恋人」と言って貰いたい。
其処までは望まないからせめて、「副官」とか「忠臣」とか「侍従長」とかならまだしも。
椅子。(人間じゃなくて無機物だ。)
さぞ、天の父と弟は嘆いていることと思われた。



直後。
大将二人の姿を見つけた吉川元春と片倉小十郎が、何とも言えない顔のまま呆然と。
夜明け間近の空の下、公然といちゃいちゃしている上司二人を凝視していることに、政宗は漸く気付いたのだった。











††††††††††

此方のナリ様は無印設定。故に武器が輪刀ではありません。

『東京ナイトメア』のラストシーンパロディ。女王毛利は書いてて楽しかった。
ナリダテにしか思えない感てんこ盛りですが、ダテナリ。
夜、布団の中でだけ立場逆転してるんです、此の二人は(殴)
わかりにくいですが、これは毛利のれっきとした愛情表現。きっときっと。
伊達だから甘えて居るんです。
援軍の要請したりとか、椅子扱いとか、全部。
伊達は気付いてないけどね・・・気づけなくても仕方ないですが。

ちなみに、「征厳の配の房のいくつかに、炭素繊維が・・・」の元ネタも、お涼様。
毛利は日輪の申し子じゃなくて、お涼様の化身かも知れない。

てゆか、自分UPする順番間違えてないか、小説・・・