こんな事があった。
幸村十二歳、佐助十六歳の冬。
居合わせた全員が、忘れたくても忘れられない話である。
夕飯の支度時のことであった。
軍議を終えた勘助が、私室へ帰る其の途中、厨房前にて。
冷徹一点張りの佐助が、珍しく荒げている声を聞きつけたのだった。
「俺は言いましたよね?昨日も一昨日も、夕飯前に団子食べるな、って。」
ぺしぺし。
何の理由があってかは知らないが、手に持った長ネギで相手の頭を叩きつつ、佐助が怒っている。
こんな事で怒られる人物といったら一人しか居ない。
佐助の主(と言っても、佐助より年下の子供なのだが)、真田幸村である。
どうやら、これで三日連続、同じ事で怒られているらしい。
「ちゃんとおやつ食べて、夕飯もやたら食べるのに、余計に団子食べてどうするんです?しかも其れ、明日の軍議の
お茶菓子にって買ってあったものですよ。」
ぺしぺし。
背中を向けている為勘助からは見えないが、幸村は佐助の剣幕が怖くて泣いていたりする。
けれど、この当時はまだ兎に角冷ややかで無機質だった佐助は、許さず。
「あと何回、俺に同じ事で怒られるつもりですか?」
ぺしぺし。
ぺしぺし。
間の抜けたような音が、不釣り合いすぎるほど緊張した場であった。
其の、暫くの後。
漸く佐助のお説教は終わった。
「分かりましたか、幸村様。」
頷く幸村。佐助はにこりともしない。
「分かったのなら、此処ではっきり言って反省して下さい。なんで俺に叩かれたんですか?」
「・・・・・ネギ。」
ずるぅっっっ
丁度この時通りかかった内藤は、盛大に転ける勘助という、珍しいモノを目撃する羽目を見た。
脱力した勘助は、内藤に抱き起こされて、どうにか立ち直ったのだが。
わたわたする外野に構う本人たちではなく(そもそも気付いていないのだから仕方がない)
「ネギじゃなくて。なんで俺に叩かれたのか、ちゃんと言って下さい。」
「だから、ネギ。」
がくり。
漸く立ち直った勘助は、内藤が転けた所為と幸村の発言で再び、頭を抱えて膝をついた。
幸村の言っていることだって、或る意味間違いではないのだから不憫である。
けれど、佐助が言う「なんで」と、幸村が解釈している「なんで」の意味が、違っているのも事実。
「分かったって言ったでしょう?なんで俺に叩かれたのか、ちゃんと言って下さい。」
「だから、ネギ!!」
ダメだ、らちが明かない。
悟った勘助は、こめかみを押さえながら割って入ることにした。
「幸村。佐助は、どうして佐助に怒られたのか、其の理由を言えと言っているのだよ。」
「あ、かんすけ様!!」
「山本軍師・・・。見てらしたのですか。」
案の定気付いていなかった少年二人は、目を瞠って勘助の方を向いた。
「佐助、一度言ってダメなら、言い方を変えてみないと。幸村も。同じ事何回言っても無意味だ。」
釘を刺してから、
「其れで幸村。佐助に怒られた理由は、分かっているのか?」
重ねて問えば、しっかりと幸村は頷いた。
「きのうも、おとといも。夕ご飯前に団子を食べるなと、佐助に言われました。けれど、また今日も
おなじことをして・・・。そしたら佐助に、ネギでたたかれて怒られました。」
「・・・ネギは良いから、ネギは。」
もう少し大声で言っても、誰も内藤を責めなかったと思う。
ともあれ、きちんと幸村に言い聞かせ、佐助にも言い含め、この場は収まった。
この後、幸村はネギが苦手になったらしいが、これが原因かどうかは定かでは、無い。
どっとはらい。
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ちび幸とちび佐助の話。投稿ビデオのネタから。
佐助も若かったので、見てた勘助の気配に気が付かなかったのです。
幸村がネギにこだわった理由は不明です。
・・・破月がネギ嫌いだから、とか言う動機ではありません断じて。