※ ご注意願います

素顔が三成に瓜二つという、オリキャラがメインの話です。
しかも、闇人。
光に弱いはずの一族の頭領です。

三成が秀吉の命で調査した島「夜泉島」に生きていた、一族の長。
光と弱点とする生命体だが、唯一頭領だけは光によるダメージがない人です。

そんな、色々とアレれな設定の話ですが・・・

よろしければ、さあずずいと下へ














【 細く撓う 白い指先 】
【 灼けつく 罪科(とが)の羽 】
【 永久の別離(とわのわかれ) 麻迦古の弓で 】

【  闇 人(あなた)を  射 ち 殺 す  】





††††† 関ヶ原秘抄歌 − 黒鳥を射ち殺した瞬間(とき) − †††††




ただ私は、彼の人を。
<其のモノという独立した存在>として
愛しく思った、だけの、こと。




・・・慶長五年、九月十五日の記録。


『此れは、或るヒトツの悲劇的な童話』
『神より授けられし弓を持つ姫武者・天弓姫と』
『黒衣を身に纏い戦場を舞った“黒鳥(オディール)”の』
『最期の別れを描いた、童話』






「ええい、小早川は未だ動かぬのか!!」

苛立ちも露わに、家康は歯噛みした。
当然である。
裏切りの約束をしていた西軍の将・小早川秀秋が、何を躊躇っているのか寝返ろうとしないのだ。

「半蔵!関ヶ原南方の戦場で何が起こっておる!?」
「黒衣の異人、奮戦。」

半蔵にしては珍しく、緊張した声で、其れでも淡々と報告が為される。
途端、家康の表情から根こそぎ、苛立ちも、焦りも消え去った。

「彼の、黒鳥が・・・矢張り来ておったか。」

先の杭瀬川で、東軍勢を尽く粉砕した暗夜の住人。
秀吉存命中の小田原攻めの際にも、其の圧倒的な力を見せつけた異境の戦巧者。
《闇人》と呼ばれるモノ。人間を遙かに上回る知性と、能力を有する生命体。

「小早川の目と鼻の先で、あやつが舞っておったか・・・。」

恐らくは、三成の策であろう。
三成も、そして其の腹心左近も、神算鬼謀という点に於いては小早川の遙か上をいく将。
寝返りは許さないという意志を、闇人による牽制で示しているのだ。
小早川は、見事其れに引っかかった形になっている。

「討つよりほか、無いか・・・」

闇人を討たなければ、小早川は動くまい。
小早川が動かなければ、このままジリジリと東軍が押される一方。
待つのは、敗北の二文字だけだ。

しかし。

「誰が、彼の黒鳥に刃を向けられる?」

杭瀬川で、闇人の実力を目の当たりにしたばかりの東軍である。
否、あの程度が実力の全てである筈がない。
真正面から太刀合えば、どうあっても勝てる相手では、無い。
そう、たとえ東軍が誇る無傷の鬼神・本多忠勝が出ていったとしても。

「どう、すれば良いのだ・・・」

戦えば負け、戦わず座していても、負け。
懊悩する家康に、半蔵は静かに、告げた。

「稲を。」
「・・・半蔵?」
「稲に、射ち落とさせるが上策。」
「しかし、半蔵。」

さしもの家康が躊躇う理由は、しかし闇人の強さを恐れてのことではない。
忠勝の娘である稲姫は、其の性質も父親そっくりに受け継いでいて。
稲姫の父・忠勝は、混沌を呼ぶ禍々つ風の魔のものを、「風魔小太郎」という独りの存在として深く慈しんでいるのだが、血は争えないといったところか、何というか、稲姫は闇人ではなく「キノト」という独りの存在として、彼の黒鳥を慕っているのだ。

闇人を討たせて、稲姫が傷つくのが恐いのではない。
知己を手にかけさせて、稲姫が悲しむのが恐い。

迷いを断ち切ったのは、轟く雷鳴のような声だった。

「殿、拙者にお任せあれ。」
「忠勝。」

稲姫の実父・忠勝が、本陣の不安を感じ取ったのか厳しい面持ちで進み出た。

「稲には、拙者から話をいたしましょうぞ。稲に恨ませるのならば、半蔵でも、殿でもなく、忠勝を恨ませばよいこと。」

忠勝は痛感していた。
闇人をこのまま捨て置いたのでは、東軍に勝ちはないということを。
そして、闇人を討てるのは、稲姫の持つあの弓矢以外の何物も存在しないということも。

「稲の手で、闇人を。」

覚悟を決めたような忠勝の声に、家康は小さく、頷いた。





『無傷の鬼神は、娘の心中の痛みを察していながら、其れでも』
『唯 己が主の悲願の為に』
『敢えて、愛娘に苦渋の決断を告げる役目を負った』
『父親としてではなく、戦場に生きるもののふとして』
『父親としてではなく、無傷の鬼神として』
『娘ではなく、天弓姫に、“黒鳥(オディール)”を討て、と』
『命じに、行った』





其の頃稲姫は、西軍本陣を奇襲すべく北の間道で兵を指揮していた。
突然現れた父の姿に、稲姫は非道く動揺したようだった。

「父上、どうして此方に?まさか、殿に何か・・・」
「そうではない。稲よ、忠勝はお前に、東軍の命運を託しに来た。」

瞬間、稲姫のかんばせに、先程とは別種の緊張が浮かぶ。

「命運を?父上、稲は一体、何をすればよいのですか!?」

一途な、眸であった。
忠勝が、そして家康が、手塩にかけて育てた姫武者は、立派なもののふとに成長していた。
しかし。
今回、この純粋一途な娘に命じなければならないことは。
忠勝の胸に、先程かなぐり捨てた筈の躊躇が去来する。

(許せ、稲よ・・・!!)

唇を噛み締めて、大きく息を吐いて。
「無傷を誇る徳川の鬼神」は、重々しく言葉を紡いだ。

「黒鳥を、討て。」

・・・音、が。
鈴が鳴るような音を立てて、何かが砕けたような、気が、した。

「・・・頭領殿、を?」
「そうだ。闇人の頭領を、彼の黒鳥を。稲、お主の其の弓で、射抜いてみせよ。」

残酷な、命令だ。
其れは誰しもが、抱いた思いであった。
しかし、闇人を放置することも、稲姫以外の者が闇人を討つことも、不可能で。
何せ、真正面から挑んだのでは、忠勝でさえ勝てる見込みは怪しい相手なのだ。

稲姫しか、居ないのだ。

「・・・・・承知致しました。」

永劫とも思えるような、長い長い沈黙の後。
稲姫は、凛々しく眉を上げて、応えた。

「殿の為、徳川の為、黒鳥を討ち落として参ります。」
「稲・・・」
「父上の名に恥じぬ働きを、必ずや・・・。」

言葉とは裏腹に、涙を溢れさせそうな面持ちで。
其れを父に見せまいと、彼女は踵を返し、愛馬の手綱を取った。

「稲・・・許せ、我が娘。」

もののふとして、非情の決断を下した娘の背中に向けて。
忠勝は、小さく、詫びた。





【 在りし日の追想と 魂の傷口が 】
【 躊躇いを呼び醒まし此のココロ惑わす 】
【 「何れ討たれるのなら、いっそ私の弓で・・・」 】
【 俯いて 目を伏せて 風の声を聞いた 】





戦とは言え、そして敵味方に分かたれたとは言え。
友と呼び、其の魂を慕った相手を。
何の躊躇いも無く射殺せる程、稲姫は冷酷な武者ではない。

けれど。

養父として、主君として慕う徳川家康が、夢にまで見た、天下。
今までの合戦で、命を落とした数多の将星が、家康の両肩に託した未来を、ふいには出来ない。


――――――― 此の、戦場で。誰か他の者が手を下すくらいなら、いっそ・・・いっそ、稲が。


友だから。
愛しい相手だから。

大切な人だからこそ、討つのであれば、この両手で。
父・忠勝が、「父親」としてではなく「徳川の鬼神」として、命じに来た、あのときに。
稲姫は、いやさ「天弓姫」は、己の心中にそう言い聞かせ、愛馬を駆ったのだった。



狙撃地点は、松尾山。
小早川を牽制し、其の麓で舞う“黒鳥”を。

一撃の、もとに。



辿り着いた松尾山にて、砦を護る小早川勢の兵たちからも、其の小早川に脅しをかけている布施孫兵衛の手勢からも、死角になる地点に、稲姫は身を潜めた。

(頭領殿・・・)

胸に去来するのは、小田原での邂逅と、秀吉政権下での懐かしい日々の幻灯ばかり。
人に酷似していながら、人とは全く異なる思考、能力。
其の癖、目元を隠した其の顔に浮かぶ表情は、どれも皆生き生きと豊かで。

愛しいと、感じた。
慈しむべき相手だと。

そう、思って、いた、のに。

闇人だとか、人間だとか、そんな境界など感じなかった。
唯、己と彼の人という存在同士が在るだけのように。
「稲姫」と「キノト」という存在同士が在るだけのように。
思って、いたのに。

敵も味方も、何もなかった。
愛しくて、大切で、其の手を取り何処までも歩んでいきたいような、存在だった。

けれど。

(さようなら・・・)

さようなら、頭領殿。

稲は、あなたを、この関ヶ原の地にて討ちます。


もののふとして、選ばなければならないモノを。
選び取り、覚悟した。

それだけのこと。


東軍の兵を相手に、軽やかに、鮮やかに舞う黒い鳥。
闇人は、人間とは比較にならない程の高い自己再生能力を持っている為、何の策もなくただ矢を射かけたのでは意味がない。
しかし、そんな相手にこそ使うべき矢が、其れを射る為に使うべき弓が、稲姫の手元にはある。

闇人を討ち滅ぼすことの出来る唯一の矢を、そして其れを射るに相応しい弓を、稲姫は其の手に取った。





『賽は振られた』
『父の武名と、属する軍の勝利と』
『もののふとしての、決意を賭して』
『天弓姫は、弓を構えた』
『友への慕情を捨て去って』
『破邪の矢で、“黒鳥(オディール)”を射抜く』
『其の、最期の覚悟を、決めた』





引き絞った弓から放った矢が
薄闇を切り裂く軌跡を描いて

真っ直ぐに

吸い込まれていく、キノトの左胸へと。





【 銀色(しろがねいろ) 砕ける虚空(そら)に 】
【 舞い散る 闇の羽 】
【 人ならざる 刻(トキ)の巫(こうなぎ) 】

【  この手で 射ち殺す  】




『恨むのは互いのさだめ 呪うのは互いのさだめ』
『嘆くのは、唯悲劇へと軌跡を描く為に始まった、彼の日の出会い』

『天弓姫は矢をつがえた 荊を延わせた枳の矢を』
『冷徹な狩人の瞳の先には、艶やかに舞う“黒鳥(オディール)”の姿』

『刃色の風で』
『白蝋のような其の躯に咲かせた、一輪の黒い曼珠沙華(血塗れ華)』

『天弓姫の携えし、思慮ある神より授けられし弓が放った』
『枳荊の白い矢は過たず』

『“黒鳥(オディール)”の胸を、貫いた・・・』





“其の刹那”まで、キノトは全く気付いていなかったようだった。
突然、己の左胸に突き刺さった白い矢を、信じられないモノを見るように一瞥し。
其の次の瞬間、漆黒の血を大量に吐いて、其の場に頽れた。

地面に倒れ込むまでの短い間、ひたと、稲姫の方を正確に見据え乍ら。



暮れかけた光線が彩る中空に、黒真珠のような軌跡が踊る。





【 愛しい人を喪くした世界では
  華は何を宿して咲くの? 】





堪えきれなかった。

「頭領殿!!」

声の限り叫んで、仰向けに倒れ伏したキノトの元へ、稲姫は駆け寄った。
己の放った矢に、深々と貫かれた左胸へ厭でも目は向いて仕舞う。
溢れ出す夥しい量の血が、傷の深さを暗に示していた。
抱き起こした躰に、既に力は無い。

「いな・・・」
「頭領殿、わたし、わたしっっ・・・・」
「さだめ、で・・・あったのだよ・・・いな・・・」

キノトの声は、唯只管静謐であった。

「さだめ・・・?」
「闇人は、人間に殺される・・・“黒鳥”も、また・・・人に、狩られる・・・」
「違う!!わたし、わたしは、そんな・・・」
「・・・知ってる。」

ぽたり。
零れ落ちた稲姫の涙が、キノトの白い頬を伝う。

「稲は・・・闇人も人間もなく、わたしを・・・見て、くれた。“夜泉島の黒鳥”・・・では、なく、“キノト”、を・・・見て、くれた。」
「でも・・・其れは、だって頭領殿、わたし、」
「嬉し・・・・・かった・・・から・・・・・、良い・・・此の、命・・・」


 い な に 、 あ げ る ・ ・ ・


聲の代わりに、黒い血として吐かれた其の言葉は、確かにそう稲姫には届いた。




其れが、最期だった。





【 吹き荒んだ 落日の羽 】
【 永訣の黄昏 】
【 夜闇照らす 錆びつく火群 】

【  私を 焼き尽くす  】





「とう、りょう・・・どの・・・・・・っっ」

透けるように色の白い、其の手はもう冷たくて。
途切れ途切れ、嗚咽に紛れながら呼ぶ声も、もう届かない。

死んでしまった。

わたしが殺した。

わたしが、この手で。

此の手で射ち殺した、愛しい人。




【 愛しい人を喪くした世界では
  華は何を宿して咲くの? 】



慈しみと、愛おしさを宿して咲いていた花たちは
其の、想いの行き場を無くした場所で



【 愛しい人を喪くした世界では
  華は何を宿して咲くの? 】



何を秘めて、咲くのだろう?
何を抱いて、咲くのだろう?



【 愛しい人を喪くした世界では
  華は何を宿して咲くの? 】



流れた黒い血溜まりの中
凛と、天を仰ぐように



【 愛しい人を喪くした世界では
  華は何を宿して咲くの? 】



まるで、彼の人の横顔のような
透き通る、純粋なまでの白のままで





『此れは、或るヒトツの悲劇的な歌』
『華々しく語られ続ける大戦の』
『誰もが知る流れの中、忘却されていった』
『大切な誰かとの別れを紡いだ、一片の歌』


















†††††††††††††††
以上が、『関ヶ原秘抄歌』の全容。
副題の『黒鳥を射ち殺した瞬間(とき)』、コレ見たら元ネタ一発でしょ?
あれ・・・?
雪月ちゃん、其の手に構えている狙撃仕様64式小銃は何でs(パァーン!!)
其れそんな、狙撃なんかしてないでー!!(何が言いたい)

ひっそりタダコタに勢いもらって、原曲聴いた瞬間降臨した神にそのまま従いました。

えと、このあとの関ヶ原合戦ですが。
史実とは少し違う展開を見せます。

こんな感じ。

小早川の裏切り発生(史実通り)
けど、頭領の戦死に三成が激怒して、左近以下、西軍武将全員が総攻撃に転じます。
迎え撃つ東軍も総攻撃ですからねえ・・・総力戦になったわけです。
傍らでひっそり、武蔵対ジャイケルマクソンの決戦も進行(何で)
ただ、稲の覚悟を無駄にはすまいと、忠勝が凄い勢いで奮戦するので、西軍は結局負けますが。
三成と左近は、二人折り重なるようにして自刃(サコミツがラブラブしてるのは世界の法則です)←寝言
他の西軍武将も、勇ましい戦死もしくは覚悟の自決を以て幕を引きます。
なので、東軍武将の手にかかって討ち取れられた人はいないという結末。

三成は、“黒鳥(オディール)”=頭領に対する“白鳥(オデット)”なので、取り敢えず王子と
結ばれていて欲しいという爛れた妄想です
(王子て・・・左近は王子じゃなくて軍師だった筈じゃ・・・)


あと、心底どうでも良い裏話。
『SIREN2』では、相手(敵)に気付かれていない状態での狙撃に成功するとクリティカルヒット。
ダメージが3倍になるそうで。
+α、ヘッドショットと言ってドタマを狙撃でブチ抜くとコレもダメージ3倍になるそうです。
相乗効果で合計9倍。
なので、稲にもこの効果を狙わせようかと思ったんですが・・・。

ドタマを矢でブチ抜いたらドリフじゃないです。
何か間違ったウィリアム・テルじゃないですか。

なので、素直に左胸に落ち着かせました。
このシーンでコントは・・・・其れだけは・・・!!!