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絶対、隠し通せる自信があったのに

何でまた、よりにもよって


あなたに、看破されるんだ






【 色に出にけり、我が恋は 】





“しのぶれど 色にいでにけり わが恋は
 
           物や思ふと 人のとふまで”・・・・・百人一首・平兼盛




だって、何時ものように其の背中を眺めていただけなのに。


「・・・け、佐助!」
「うわ!旦那!?」

何だってこうもぼんやりしてしまったのか、そもそも其れが分からない。
こんなに注意力が散漫では、満足に仕事など出来はしないだろう。
つくづく、休日であったことに感謝した。

「どうした、何度も呼んだのに。」
「ごめん、ちょっと考え事を・・・」

心配そうに覗き込む主の顔に、訳もなくどきまぎしてしまう。
心臓が早鐘を打って、其れが気になって気になって、上手い言い逃れの言葉が出て来ないのだ。

「何か、心配事でも?」
「いや、そーいうんじゃなくて・・・」
「誰かにいじめられたか?」
「いや、其れは無いから、あの、旦那・・・」
「具合でも悪いのか?」

人の話聞けェェェェェェェェェ!!!!!

矢継ぎ早に畳み掛けてくるものだから、ついついうっかりそう怒鳴りそうになってしまって。
こんな失敗も、佐助らしからぬ事態なのだが、其れより何より。
すんでの所で其の一声を押し止めたのが、重ねに重ねた忍びとしての鍛錬ではなかったことの方が重大なのだ。


「熱は・・・うむ、無いな!」

子供の頃からそうしてきたのだから、まあ幸村を責めることは出来ないわけで。
突然触れてきた主の額の温度、感触、そして何より間近にある其の顔に、心拍が跳ね上がる。

「だが、なんだか顔が紅いぞ。」
「や、あの、旦那・・・」

其処で止めてくれれば良いのに、部下思いのこの主は、がっしと佐助の頬を其の手で包み込んで。

「佐助、無理はいかんぞ。」

目眩がするくらい真剣な顔で、一言。しかも目の前。


・・・・・ああ

旦那、其れだよ・・・・・・!!

其れが駄目なんですってば、オレ!!


心の叫びなんて、届かなくて普通のシロモノ。
この後しばらく佐助は、幸村のやたら真剣な
「些細なことでも構わん、某に相談してくれ!!」
に苛まれ続けた。




「もーさぁ、ほんっと旦那、大将そのまんま。人の話聞いてくれなくて。」

漸く、逃げ出すことに成功して(解放されたのではない、断じて)、迷わず佐助は勘助の元に向かった。
言わずもがな、愚痴る為である。
珍しく、地下ではなく上の座敷にいた賢才の紫水晶は、一通り聞き終えてから、一言。

「兼盛だな。」

愉快そうに、意地の悪さを含んだ声で言って、笑った。
佐助は訳が分からない。

「・・・勘助兄ィ、何が?」
「お前が。いや、古の歌合わせで判事を惑わせたあの歌が、今再び人の心を惑わすか。」

何が可笑しいのか、口元に手を当てて勘助は笑い転げている。希有な光景だ。
が、全く意味が分かっていない佐助にしてみれば無性に腹立たしくて。

「お願いだから、分かるように説明してくれる?」

苛立った言葉が、声が、零れてしまった。
あ、と思ったが、発せられた言葉は後の祭り。佐助らしからぬ失態其の2、である。
しかし、勘助は怒るでもなく、寧ろいよいよ以て可笑しそうに平然と答えた。

「掻き乱されどおしだな、お前は。其れで忍んでいたつもりか?」
「え?」
「しのぶれど 色にいでにけり わが恋は 物や思ふと 人のとふまで。未だ思い人まではバレていないのだから、まあせいぜい頑張って露見しないよう尽力しろ。勘付かれていてもな。」


・・・・・・・げ。

(やっぱり、てーかこの人にも見抜かれてたーーー!?)

内心の絶叫までも、其の秘めやかな笑いに見透かされている気がする。



しのぶれど 
(上手く隠してきたつもりだったけれど)

色にいでにけり 
(ああ、顔とか仕草とかでバレバレでしたか)

わが恋は
(オレが、真田の旦那に惚れてるって) 

物や思ふと 
(具合でも悪いのか、何か心配事でもあるのか、と)

人のとふまで
(思っている其の相手に、言われるくらいに)


要は、この歌はこう訳せ、と?



「ちょっ、勘助兄ィ!?あの、待っ、ねえちょっとォォォォォォォォ!!」

こんな。
看破どころかもうバレバレなんて。
其れもう、忍びとして致命的って言いませんか、ねえ軍師殿!?


あわあわする佐助を残し、去っていく背中に腕を伸ばすも。


身軽な軍師の後ろ姿は、既に遙か彼方。


虚しく空を切る掌に、風が冷たい。





こんな事言われちゃって、もうオレは一体どうしたら。



答えなんか何処にも、無い。






どっとはらい。








†††††††††††††††
明るいネタの神が、百人一首からポロリと振ってくれました。
この歌はもう、佐助だな!と思って。
幸村、聡いんだか鈍感なんだか。勘助は意地悪です。
一歩間違うと、武田軍全員に見守られている佐助の恋路。
頑張れ佐助、みんなお前の味方だから!!(をぃ)