暗く澱んだ空を見上げ、問う

今生きている理由
此処に在る理由
遺された理由
遺されてしまった意味


今は、理解出来ずとも・・・・何時かは。


「夢・・・」

軽く息を吐いて、幸村は体を起こした。
薄明、もうそろそろ夜が明ける時分と知れる。

「あの日の・・・長篠の夢か。」

其れは幸村にとって、あまりに多くを無くした日の記憶。



障子を開けると、清々しい朝の空気が頬を撫でた。
暁闇に染まる空を見上げ、消えかける夢の光景を幸村は追った。

(あの日・・・私は生き残った理由が分からなかった。
 何故、生きてしまったのか。
 何故、槍を放さなかったのか・・・)

いや、とひとつ頭を振る。
過去形にしていい疑問ではないことを思い出したのだ。
未だ・・・幸村はしかと理解したわけではなかった。

自分が今、此処に生きている理由を。

あの日の違う点を強いて上げれば、
分からないなりに少しずつ、何かが掴めかけているような、そんな感覚が今は生じている程度。
理解出来たとは・・・お世辞にも言い難い。

が。

(私が生き残った意味、私が闘う意味、
 義を、武士の時代を肯定するのならば、迷ってなどいられない。)

少なくとも
そう、考えられるようにはなっているのだから。

「貫き通すだけだ。」

ひとつ、言葉に乗せてそう呟いた。
噛み締めるように
言い聞かせるように


この往く道を後悔するなら
今此処で槍を捨て、どこへなりとも逃げればいい。
けれど、そうする気がさらさら起きないのは多分きっと

これから進もうとする其の先と
今まで歩み信じてきたすべてを、肯定しているから。


なれば
遺された腕に、槍に、命に
出来ることは、やらねばならぬことは、在るのだから。