【 あなたの言葉だから 】
幸村と兼続が立ち去った三成の部屋。
不安で噴き零れてしまいそうな三成と
凛と落ち着いた左近は、静かに
向き合っていた。
「殿は、この左近の言葉が信じられませんか?」
真剣な低音に、三成の心が少しだけ安らぐ。
「信じたい。だが・・・信じられんのだ。」
「異な事を。左近は殿に、嘘偽りなど申しません。」
「知っている。だが・・・だが疑ってしまうのだ・・・!!」
血を吐くように。
泣き出さないのが不思議な程の、悲痛な声であった。
「キノトと自分が違うことを、理解しているから?」
「・・・ああ。」
蚊の泣くような声。
左近は溜息を吐いて、三成の肩に手をかけた。
瞬間、びくりと三成の躯が震える。
「顔を、上げてくれませんか、殿。」
三成は黙して、首を振るばかり。
「殿。左近の顔を見て下さい。目を見て話がしたいんです。」
重ねて、やや強めに言えば。
ゆっくりと、三成は視線を合わせた。
まるで泣き出してしまう寸前のように、綺麗な顔を歪ませて。
「殿は、水晶をご存じですね?」
突然、何の話かと。
そう思ったけれど、左近の眸の優しさに気勢をそがれて。
こくりと、三成は無言で頷いた。
「水晶の輝きは美しいでしょう?硬質で、純粋で、凛として。」
眉間から力が抜け、盛大に寄せた皺が消えていくのを、三成は自覚した。
「では、月はどうです?月も美しいですが、水晶と同じ美しさですか?」
「・・・いや。違うと、思う。」
ぼそぼそと。
多分左近だから聞き取れる声で、三成は答えた。
「ええ、その通り。月の美しさは、水晶とは全く異質です。穏和で、柔らかく、少し冷ややかでしょう。」
「ああ。・・・其れと、俺とキノトの話と、どう関係がある?」
丸め込まれたことが口惜しいのか、ぶっきらぼうに言い放つ三成の手を。
可愛くて仕方が無いとでも言うように、左近はそっと取った。
「殿の美しさは、水晶の其れと同じだと。其れが、左近の本音です。」
恭しく、騎士が姫の手を取るような姿勢で言われて。
たちまち三成の白い頬に、かあっと朱が差す。
“硬質で、純粋で、凛として”
つまりは、左近が言う『綺麗』には、そんな意味が込められていた、と?
「左近の言葉が足りず、殿を苦悩させてしまいましたね。申し訳ありません。」
「・・・いい。」
噛み締めていた所為と、血が上った所為で紅色の唇を震わせて。
三成は早口にまくしたてた。
「何ですか?」
「もういいから、左近・・・手を離せ・・ッッ!」
「おっと。」
するりと、捕らわれていた右の指先を解放されて。
そのまま三成は左近の肩口に顔を埋めた。
すかさず、背中に大きな手が回される。
「復活、してくれましたか?」
「・・・俺が水晶で、キノトが月なのが気に食わんが・・・よしとしてやる。」
らしすぎる言葉。
しかし、其れこそが。
三成が吹っ切った証拠であった。
「ありがとうございます、殿。」
胸を撫で下ろし、左近はほろ苦く笑った。
可愛らしすぎる主君を抱きしめて。
此処はひたすらに甘く、ひたすらに甘く!
と思っていたらこうなりました・・・
針水晶(ルチルクォーツ)は、水晶の中に銀色の針が
閉じ込められてるような石です。
綺麗ですよ!繊細で。