【 綺麗な、顔  】




キノトは
頭領という立場柄、他から見られることには慣れている。
けれど

「三成。何かあったのか、さっきからずっと睨んで・・・」

至近距離から、眉間に縦皺を刻んだ美人に睨むように凝視されたのは、初めてだった。
何か彼の人の気に障る言動でも取ったかと、やや心配気味で唇を開いたのだが。

「キノト、顔を・・・見せてくれるか。」
「顔を?」

問い返せば、そうだと頷く三成。
無用の混乱を避けるために晒さないような素顔なので、三成と二人っきりの今ならば、迷う理由も無い。

「はい。これでいいかな。」

優しい衣擦れの音の後、二つの同じ顔が向かい合う。


明るい栗色の髪に、気の強い暗褐色の眸、如何にも融通のきかなそうな顔つきの三成は。

暗い古木色の髪に、光線の加減で朝焼け色の陽が灯る漆黒の眸、透けるような白皙の慈相のキノトを。

睨むような鋭さは失せた、しかし何か考えているような神妙な面持ちで、じっと見つめた。


「すまん。突然に悪かった。」
「いいよ、何も困りはしないから。けれど、理由は知りたいな。」

ややあって。
結句何も分からなかった風情でため息を吐く三成に、キノトは静かに問うた。

「左近・・・」
「うん?」

何時になく答えにくそうに、三成は顔を背けつつ、もごもごしている。
其の頬が、薄紅に染まっているように見えるのは気のせいだろうか?

「左近が・・・その、あんまり『綺麗だ、綺麗だ』というから・・・」
「ああ、本音なのか世辞なのか、見極めたかった?」
「せ、世辞に決まっているだろう!下らん時間をとらせたな、失礼する!!」

今度こそ間違いなく、真っ赤な顔をして三成は飛び出していった。
残されたキノトはおっとり微笑んで、

「やれやれ・・・正面切って誉められていると分かると、途端にこうだ。」

暗に自分も「綺麗」と云われたのが嬉しいのか、そう静かに呟いて。
慣れた手つきで、元のように顔を覆い隠した。













日記より。エンパやってて湧いたネタです。
三成、左近の「綺麗な顔して〜」発言気にしていたようだったので、つい。
真似して言ってみる程度には気になっていたようですし。
同じ顔の人いたら、こうするよなあ・・・