月と玻璃の肖像
ぱたぱたと。
廊下を渡る足音がする。
キノトは、風の匂いをかぐように首を巡らせて
「落ち着いたか。」
ひとりごちながら、顔を覆う布を外した。
「珍しいな。誰か来たらどうするんだ。」
足音の主は、キノトの予想通り三成であった。
「別に。人違いで混乱するような時分でも無し、気にしない。」
「そうだな。」
丸投げしたようなキノトの言い草に、思わず笑う三成。
苦笑いを浮かべた二つの顔は、鏡のように酷似している。
「左近が。」
ややあって、三成は少し照れくさそうに口を開いた。
「悩みの答えをくれたのだろう?」
「ああ。お前は月で、俺は水晶なのだそうだ。」
「ほう?」
また気障な喩えを持ち出したな、あいつも。
同じ顔をした何処かの誰かには絶対出来ない芸当に、キノトの胸中には軽い呆れが去来する。
まあ、三成が幸せそうだからいいか。
結局は其処に落ち着くのだが。
「月と水晶とでは、美しさの種類が違う、と。」
「わたしが月というのは大袈裟だけれど、お前が水晶の美しさというのは、なかなか正鵠を得た喩えだね。」
言外に、左近のことも其れと無しに誉めると。
「・・・そうか。」
浅井夫婦も裸足で逃げ出しそうな顔をされた。
もう、キノトの方が恥ずかしい。
「左近の言葉、今度からは素直に信じておあげ。」
内心の嘆息を努めて気取られないように、キノトは一応気遣った。
まあ、今の状態なら何言ったところで大丈夫だろうけれど、と思いつつ。
どっとはらい。
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頭領も手が出せないバカップル、其れがサコミツで良いと思います。
同じ顔という安心感から、三成は頭領に対してのみ、素直になるところとかあるよなあ。
左近は其処にやきもきしてればいい。嗚呼バカップル。