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貴方の居ない未来なんて
そんなの、唯の虚ろな闇
どんなに焦がれた太平の世も
貴方が居なければ大きな闇
[ Holy ground ]
一度ならず夢見た
貴方と共に、生きてゆける世界を
「どうした、真田。止めを刺したらどうだ?A.ha?」
右腕を、深く幸村の蒼紅に抉られ、其れでも不適な笑みを崩さず。
掠れた声で、政宗が言う。
日本を見事に二分して、武田と伊達が睨み合う様になった其の日から。
何時かは辿り着く運命にあった、此の瞬間。
「簡単だろ?今腕を狙った要領で、今度は首を刺せば良いんだ。」
政宗の言う事は正しい。
・・・正しいの、だが。
「・・・泣くなよ。覚悟してたんじゃなかったのか?」
涙が
涙が、止まらない。
「独眼竜殿、某は。」
貴方が居なくては、駄目なのです。
食いしばった唇から、一筋の血が流れた。
まるで、紅い涙のよう。
「貴方が居ない場所でなど、生きていたくない!!」
「COOLになれよ。お前は武田の一番槍。通りすがりの敗者なんざに、
イチイチぐらついてどうする。」
「お慕い申して居るのです!!他の誰でもなく、貴方を!!」
「忘れろ。乱世が見せた、Illusionだったと。」
「いやでござる!!」
「真田・・・」
ぼろぼろと、幸村の頬を伝う涙の雫が、諫める言葉を
凍りつかせてしまう。
「貴方が居なくては、意味がない!!」
なんと
なんと一途で、愚かな想い
けれど、其の思慕を向けられているという事実が
こんなにも
こんなにも、嬉しいなんて
(二人、生きて結ばれる道は無い)
(天下を目指す二つの雄、されど天下は唯一つのみ)
(譲る事も、退く事も出来ぬ道ならば)
示 サ レ ル 最 後 ノ 道 ハ
「真田。」
此処に辿り着いたとき
唯一、二人が離れず済む道
あまりに無惨で
あまりに虚しくて
けれど
其れでも良いなら、ずっと傍に居られる方法。
「耳貸せ。」
教えてやるよ
お前が其れを望むなら
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
泣き濡れた眸を見開いて
息を呑んで顔を上げ
そして
「貴方と一緒なら、どんな道でも。」
痛々しい笑顔でさえ、こんなにも愛しい。
ふわりと滑り込んできた幸村の躯を
無事な左腕で強く抱き締めた
政宗の背に回された幸村の腕が
覚悟を決めるように、蒼紅を握る
刹那
奔ったのは
激痛と
灼熱
幸村の刺し貫いた槍は、政宗の躯を貫通し
深々と、幸村自身の腹に突き刺さった。
「・・・・・ha.」
「まさ、むね・・・どの・・・・・」
「・・・ゆきむら・・・・・・・」
愛してる
重ねた唇は、苦い鉄の味がした。
【ただ焦がれるように求めてた
日々はするり 蜃気楼の向こうへ】
二人で生きていきたかった
生きて幸せになりたかった
けれど、時代が其れを許さなかった
ただ、其れだけのこと
生暖かい泥の海から浮上するようにして、幸村は覚醒した。
目の前に広がるのは、見知らぬ天上。
貫いた腹の傷は、丁寧に手当てされていた。
「ああ、旦那。ようやく目が覚めたみたいだね。」
「・・・さ、すけ?」
何故だか非道く、其の声が懐かしい。
「参っちゃったよ。勘助兄ィが、良からぬ胸騒ぎがするって言うから探しに行ったら、
伊達の旦那とあんなことになってるし。大将と勘助兄ィが必死に手を回して旦那のこと
助けたんだからね。オレはオレで働きっぱなしだしさ。」
覚えてないの?
からかうように、佐助が問う。
当然のことながら、幸村にそんな記憶など有りはしない。
ただ、覚えているのは。
血の味で苦く染まり、金臭くて、生暖かくて、
けれど、何処までも優しく幸せだった
最期の、口吻けの感触だけ。
なぞる唇が、鮮明に記憶している。
「まさむねどの・・・佐助、政宗殿は?」
「お、ようやく頭が働きだした?」
「教えてくれ、政宗殿は今、どちらに!?」
「教えてあげるから、旦那、落ち着いてよ。傷開いちゃうでしょ。」
持ち上げようとした躯を布団の中に押し戻され、幸村は大人しく、佐助が口を開くのを
待つことにした。
「安心しなよ。伊達の旦那も生きてる。てゆか、旦那の隣にいるから。
未だ意識は戻らないけれど、治療はきちんとしてあるし、大丈夫。」
言われて、そっと首だけ巡らせば、其処に。
血の気の失せた
けれど、以前と変わらず凛々しく整った
政宗の、寝顔。
「・・・良かった・・・・・」
命を絶つ覚悟をしたものの、助かってしまったと分かった瞬間は。
生きて共に在れぬからこそ、選んだ道だった筈なのに
独り逝かせてしまったかと
独り生きてしまったのかと
どんな言葉でも形容できないほどの恐怖を感じたけれど。
離ればなれにならずに済んだ。
其れだけが、非道く嬉しい。
「・・・其の顔から察するに・・・勘助兄ィの推理が的中、かな。」
低く、佐助が呟いた。
『乱世は、あやつらが幸せになることを許してくれぬであろうよ。』
独白のように、勘助が言ったのは、確か伊達との激突が確かなものとなったあくる夜のこと。
躑躅ヶ崎の館の地下、勘助専用の拷問部屋にて。
唯一本人以外で立ち入りを許可されている佐助は、其の晩も、近く起こる戦について色々と話していた。
そんな折りに、ふと零れた言葉だった。
『無惨な時代よな。どう転んでも、辿る道は悲劇。覆してやりたくても、もう打てる策も無い。』
知っていたのに何も出来なかった、己の無力さへの無念が滲んでいた。
戦の開戦が間近に迫りすぎているのだ。
和議の算段を立てるには、あまりに時間が無い。
『佐助。次の戦では、幸村から目を離さないでくれ。拙僧の考え通りの帰結を選ばれたら、
最後だ。死なせてはならない。』
『いいけど、真田の旦那を、ってことだよね?』
『・・・二人ともを、だ。』
二人が、共に居なければ意味が無いのだ。
二人一緒なら、其処が彼岸でも此岸でも、其れは問題ではない。
勘助は、確かにそう言っていた。
(だとしたら、いいんだよね・・・・)
「旦那、大将から伝言。聞いてくれる?」
泣き出しそうな顔で政宗を見つめ続けている幸村には、酷な決断をさせなくては。
「旦那。このままアンタが伊達の旦那と居たいってんなら、其れでも良いって大将は言ってる。」
けれど、条件付きなんだ。
「覚悟して、選んでよ。」
神妙な面持ちで、幸村は小さく頷いた。
「このまま二人で居たいなら、『真田幸村』の名を捨てろ、ってさ。」
彼の伊達との戦で、『真田幸村』は死んだのだ、と。
「そうするんなら良いって。」
けれどもし、其れを拒否するというのなら。
「伊達の旦那は、此処で俺が殺すよ。アンタには武田に戻って、これまで通りの生活を
続けてもらうけれど。」
あどけなさの多分に残る幸村の顔が、哀しげに歪んだ。
「流石は、軍師殿のお言葉。酷な条件を出される。」
「あ、バレてたの?」
「あの方ならば、此の程度の事は望まれよう。」
「はは、良いカンしてるよ、ホント。」
何よりも人の心を第一に思う信玄は、時として非情とも思えるほどに、厳しい。
けれど、其れ以上に情け深く、そして非情でもあるのが、山本勘助という男なのだ。
「軍師殿の事だ。お館様に、苦渋を強いる発言をさせたくないと真っ先に切り出されたのであろう。」
「ご明察。」
ま、武田の人間なら誰でも分かるか。
佐助の苦笑に、幸村も微苦笑で答えた。
「で?旦那の決断は、どっち?」
猶予期間はナシだってさ。
そもそも、戦から時間が経ちすぎているのだ。
もう、余裕はない。
けれど幸村は、唯僅かに俯いて。
「時間など、もとより必要ない。」
小さな、しかし明瞭に其れと聞き取れる声で、言った。
「真田源二郎幸村、お館様の御高恩に報いる事が出来ぬまま、逝く事を許してくだされ、と。」
「・・・あっさり、選んだね。」
もっと悩むかと思ったけど。
意外そうに見下ろす佐助に、力無く笑いかけながら、幸村は穏やかにこう言った。
「あの時、投げ出していた命だ。今更戻ろうなどとは思わない。」
それよりも、と焦げ茶の双眸が、思案の色を映して佐助を見上げる。
「政宗殿は、どうなる?」
「敗軍の将に、選択権はないってさ。」
実のところ、伊達の家臣たちには『政宗死亡』との知らせが届けられているのである。
言わずもがな、勘助の計らいだ。
ようやく落ち着き始めた政宗の腹心たちを、吉報とは言え再び混乱させるのは下策であるし、
何より『お家再興』を目論まれてはやっかいすぎる。
泣き暮らす伊達の将たちを見るのは胸が痛んだが、其れでも勘助は、そして信玄は、沈黙を
守り続けてきたのだった。
もっとも、此処まで言う必要もないので、佐助は口を噤んだのだが。
「・・・そうか。政宗殿の方から言い出した事だから、ではないのだな。」
ぽつり、と。幸村が零した。
「なに?言い出したのは伊達の旦那の方なの!?」
へえ、じゃあ其処だけ読み違えてるや、勘助兄ィ、と、佐助が半ば感心したように言う。
答える幸村の声は、何処までも静かで。
「共に、在ろうと言って下さったのだ。嬉しかった・・・」
ぼろ、と。
堪えきれなくなったように零れた涙が、総ての思いを物語っていた。
この時、ほんの僅かだけ、佐助は
口惜しいと
妬ましいと
焼けつくような衝動に駆られた。
積み重ねた、忍としての鍛錬の御陰で、其れは幸村に気取られはしなかったけれど。
(どうして、オレじゃなかったんだろうね、旦那?)
言葉に出来ない代わりに、胸の内で吹き荒れた、想い。
一生抱えたまま、秘密にしたまま、彼岸の果てまで持っていこう。
佐助に出来るのは、もう其れだけしかないのだから。
「じゃ、ね、旦那。もう二度と、会うこともないだろうけれど。」
元気で
幸せで
不意に口にした偽善者みたいな言葉が、真実になればいいと思う。
「佐助こそ、達者で。」
其の身を縛する鎖を断ち切って
どうか、誰か優しい人と幸せに
最後まで迷惑かけどおしだったのだから、せめてそのくらいは祈らせて
以降、甲斐の片隅にある其の山には、信玄と勘助が手配した薬師が数回、出入りしたのみで
武田や伊達の者が訪れることはなかった。
何時しか、里人でさえ踏み入らぬような深遠の緑に閉ざされた其の庵には
紅蓮の太陽のような青年と
高貴な隻眼の青龍が永久に住まう地として伝説になったと言うが
真偽のほどは、定かではない。
†††††††
はい、ダテサナのつもりがサスユキも巻き込んでしまった小話です。
勘助兄ィ、密かに大ハッスルしてるしね・・・
オリキャラで遊ぶのが好きな末期生物です、沈めてやって下さい。
しかも中盤以降、伊達のセリフの嘘っぽさに耐えられなくなって、気がついたら
二人をデッドオアアライブ彷徨わせてたり。
そんなんだからつけ麺なんだ!!莫迦!!!(錯乱中)
どうでも良い後日談設定として、この後佐助はちかと幸せになる予定。
(何が何でもチカサスに持っていくつもりらしいです、誰かコイツ隔離して下さい)
イメージしてたのは、当初GRANET CROWの『Holy ground』とゆー
歌の筈だったのですが、気がついたら何か、全然違うところに
流れ着いていました。
イ シ ャ ハ ド コ デ ス カ ? ? ?