二人で堕ちて逝く

最果ての奈落の、更に奥底へ

嗚呼・・・


もう、抜け出せない、永久の暗闇






【 half pain 】





其の、冷たい心の傍にいるから
縛り付ける此の、鋼鉄の両腕で、あなたを抱いて


「なあ、影よぉ・・・」

薄闇の部屋。
迷い込んだ思考回路の果てのように、殺風景な其処に

虚ろな政宗の聲が響く。

「なあに、伊達の旦那。」

ややあって。
ユラリ、闇に灯るように答える聲が、一つ。


諦念と
労りと
そして、ほんの少しばかり、憎悪と殺意の押し殺された其れは

真田隊忍頭・猿飛佐助の、揺らぐような声色。


「お前は、此処に居るんだよな・・・」

何処までも、茫洋と。
政宗の言葉には力が無く、そして真意も掴めない。
ただ、其の両腕がしがみついて離さない、佐助の腕だけが、現実のようで。

「居るよ・・・あんたの傍に、永劫居続けるさ。」

刹那、強まる握力に、僅か憐憫の情が湧く。
其れさえ、佐助は情けない。

(此の瞬間なら、容易く寝首を掻けるのに・・・)

躊躇い、踏み止まる、其の神経を抉り出して仕舞えたら。

(この龍を、殺せるのに・・・・・・)


旦那の

大将の

勘助兄ィの、内藤の兄さんの

仇を、討てるのに



「ha.そうだよな、お前は俺の傍にしか、もう居場所は無い、そうだったなあ、影よお!?」

非道く
政宗の精神は、もう随分と前から、非道く不安定になっていたと、聞いていた。

(あなたを思い、あなたに焦がれるあまり・・・政宗様は・・・政宗様の心は・・・)

沈痛な面持ちで、そしてはっきりと、漆黒の憎悪を滲ませて。
竜の右目は、佐助にそう告げた。

今、其れが手に取るように分かる。
突然人格が豹変したように、茫洋と残虐の狭間を行き来する。
けれど其れでも、此の鋼鉄の両腕をしっかりと握りしめて、彼は。

「傍に、居ろよ・・・俺の傍で、俺だけ見ていろ、影・・・・・」

歪な、泣き出しそうな、狂った笑顔で縋るように見上げてくるのだ。

「居るよ・・・離れないから、絶対。」

其の視線が、佐助を堕として逝く。

殺すべき相手
憎むべき存在

なのに、其の手を留まらせる、其の哀れな狂気の笑顔

嗚呼・・・

一体、一体何処まで戻れば、オレは


(抜け出せるのかな・・・此の、檻から・・・)



佐助を求める余り、精神に異常を来した政宗は
突如として甲斐を強襲、武田信玄以下数多の武将を切り刻み、血祭りに上げ、甲斐を滅ぼした。

当然、佐助も唯では済まされぬ傷を負い・・・

有り体に断言してしまえば、両腕を奪われた。
幸村を護ろうとした其の腕を、独眼竜に切り落とされた。

激痛と、突然の大量出血とで意識が暗転し

其の最期に揺らめいて消えたのは、無上の主の断末魔


気が付けば、奥州は青葉城の一室
無くなったはずの腕は、鋼鉄の義手に挿げ替えられていた。

新しく与えられた其の腕は

「其の腕は、お前を此処に縛り付ける為のものだ。分かってるよな?」

以来、何度と無く教え込まれる、其の通りに


此の地に、佐助を縛り付ける檻
竜の傍らに、佐助を縛り付ける枷


断ち切ろうと思えば、断ち切れないモノではないのに


甘んじて、このまま此処に居続ける、己の本意がなんなのか



もう、思考することも放棄しがちになっていた。




拒めないの、此の狂気に満ちた盲愛、其の先。

帰れない朝陽に似た、彼の日々はもう遠い昔。

かつて与えられた温もりを覆い隠し、溢れ出た闇に包まれて

何時かの輝きさえ捨てて



二人、堕ちて逝く・・・・・



「愛してるぜ、影。」

「御意。」




続きは、拒めないくらい、ほら・・・浅はか。










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久々にロビンのエンディング聴いたら神降臨。
暗いネタの神は何時にも増して降りやすい、厭な夏休みです(ホントにな)

11日に、破月と遊んで下さった神々へ、御礼として。

よろしければどうぞ、お持ち下さい(拝)。

あ、もう片方のサスユキと、2つともお持ち頂いても問題零です。