仄かに透き通る、淡く薄い紅の花

微睡む其の花が咲くのは、何時も唐突





【 語られざる物語 】



「愚か!!両翼が隙だらけとはな!!」
「中央の守りが手薄とは、門の陥落も目前か?」
「どうした、門が随分壊れておるぞ!!」

後から後から沸き出でてくるような、敵の増援。
防戦一方と言うよりは、明らかに押され始めた形勢である。


「おのれ・・・・・!!」

元就は歯噛みした。
まさか、このような戦が起こるなど!!

近隣諸国の情勢は、何処も至って平穏であり。
差し当たって、毛利の領が侵攻される心配はないと、そう考えていた矢先であった。
夜目と言うこともあるが、何よりも敵の旗が色々と意味不明すぎて、其の正体が掴めないことが、よりいっそう
元就の苛立ちに油を注ぐ。

と。


「Let`s party!!Ya−ha!!!」

聞き慣れない其の響きは、まるで音楽のように滑らかで。

刹那

闇を切り裂く迅雷の煌めきを纏い、目の前を塞ぐ、蒼い影。


「毛利元就、だな。」

隠しきれない昂揚に満ちた声は、低く甘く。
携えた六爪の刃と、右目の眼帯が、其の者の名を元就の胸に灯した。

「貴様・・・伊達政宗か!?」

奥州の覇者、六爪の独眼竜。
此の戦国の世に於いて、知らない筈がない、男。
けれど。

「何故だ!?織田は、武田は・・・奥州から此処に至るまでの、数多の国はどうした!?」
「おいおい、折角逢えたってのに、野暮な話はナシだろ、my honey?」
「・・・っ、異国の言葉で我を弄するつもりか!?」

構える征厳の配と、見上げる視線に宿る、唯ならぬ殺気。
しかし政宗は、涼しくそれらを受け流し、尚も不敵に笑うばかり。

「おっと、コイツは失礼。まあ、野暮な諸々の話は省かせてもらうが・・・オレは、お前に会いに此処まで来たんだぜ?」
「・・・どういう、意味だ。此の地が欲しいのではないのか!?」
「国なんざ二の次、三の次だ。オレが欲しいのはお前・・・毛利元就、其の人さ。」
「!!誰が貴様になど!!」

幾ら相手が竜であろうと、こんなものの言い方をされて平静な心で居られる性格はしていない。
配を振り上げ、巫山戯た物言いの償いをさせてやろうと思った、其の瞬間。


「MAGNUM!!!」
「うぐっ・・・・」

雷を刃に纏わせた平突きをくらい、背中から門に叩きつけられた。

「かはっ・・・」

激痛と衝撃に、息が詰まる。
しかし、崩れかけた足が膝をつく前に、押さえ付けられる肩が其れを防ぐ。
捕らえる両腕の主は、言うまでもない、政宗である。

至近距離で見下ろす、隻眼。
其の、刻む微笑が意味するのは。


「殺せ・・・」

低く、元就は言った。
しかし、返されたのは鼻先で笑うような、呆れの吐息。

「ha.殺すかよ。言っただろ、お前が欲しいって。」
「意味が分からぬ。嬲るくらいなら、一息に首を落とせ、独眼竜・・・!!」
「・・・そんなんじゃ無ぇって、言ってるだろうが。」
「ならば、一体何だと・・・んぅ?!?!」

言葉を紡ぎかけた、戦慄く震える唇が。
三日月のように撓う政宗の其れに、深々と塞がれる。

腕で、足で、抗おうにも、抱き留める竜の力は遙かに強くて。


「・・・っは。」

漸く離れた瞬間の、零れるような吐息さえ飲み干されてしまいそうな、其の不敵な顔が憎いはずなのに。
何故。

「じっくりオトシてやる・・・覚悟しとけ、元就?」

低い其の声の、甘い残響に、じりじりと心の奥が焦がされていく。



「お前ら!!流石は毛利、難攻不落だ。このままじゃこっちが不利になる・・・退くぜ!!!」

号令一下。
驚くほど手際よく、伊達の軍勢は退いていった。
此の国が目的ではないという言葉は、どうやら真実であったらしい。

けれど。


しゃら。

去り際に、竜が残していった剣。
唇が離れた其の後に、元就の首に鎖をかけて、残した飾り。

「必ずまた逢いに来る。其れまで・・・こいつを眺めて、オレのことだけ考えていろ。」
オレの剣を象ったpendantだ。

これでは、まるで。


「我はもう、貴様の手に落ちたようではないか・・・」

門前にへたり込む元就の耳に、剣が鳴らす鎖の音が響く。


しゃら。しゃら、しゃら。

其れはまるで、彼の低く甘い声の響きのように、元就の心を騒がせる。



しゃら。
しゃら。






†††††††††††††††
ダテナリのなれそめ編。首輪かけられたオクラ様です。
伊達が毛利に首にかけたペンダントは、破月の私物がモチーフ。
一人で勝手に、伊達の剣に似てるよーとか妄想している代物です。痛い痛い。

コレが元で、2のサンデー毛利の妄想が酷いことになりました。
ダテナリ前提ザビナリって、一体どうすれば。